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脳内ダダ漏れ帖

趣味とか萌えとか日記とかを無節操に書くブログ

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3前提の蘭丸生存IF。
本能寺の変の後、記憶を失い猟師の元で暮らす蘭丸が、猟師と共に山で出遭ったモノの話。

後でサイトの方へ収録し直して消すかもしれないけど、とりあえずはこちらに掲載。

本文はつづきから。

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『弓を爪弾く』

――今が楽しい。

心の底からそう思える。
なのになんで、時々空っぽな気持ちになるんだろう?
何か物足りなくて、何故か寂しくて、誰かがどこかで呼んでるような、誰かに会わなきゃいけないような、不思議な気持ちがするのはどうして?
行かなきゃいけない気がするけれど、行き先はまるでわからなくて、名前を呼びたい気がするけれど、呼びたい名前もわからない。

これじゃ目が覚めた時とおんなじだ――


空っぽのまま目覚めた少年は、不思議な空虚を感じていた。
今の暮らしに何も不満があるわけではない。それどころか、十分過ぎるほどに楽しい暮らしであった。
目覚めたばかりの頃に感じた、洞の如き虚無感は無い。
ただ、何かが物足りないのだ。何かとても大切なものが、絶対的に欠けているのだ。

自らの生い立ちも名前すらも失ったその少年は、子供のない猟師の夫婦と共に山で暮らしていた。
山でボロボロの姿で彷徨っていたところを、猟師の男に拾われたのである。記憶を失くした身寄りの無い少年を憐れに思った夫婦は、少年を暖かく家へと迎え入れてくれたのだった。
山の暮らしは少年にとって、とても楽しいものだった。食うにも困らず、狩も大層面白い。里に下りれば同じ年頃の遊び相手はいるし、遊び場所にだって事欠かない。何より、夫妻はとても優しく、本当の子供のように少年を可愛がってくれた。
少年は心優しい夫婦のもとで、実に「楽しい」日々を送っていた。
その空虚の事を、考えさえしなければ。


山奥。
少年は短弓を引き絞り、樹上の鳥を睨み付けていた。静かに呼吸をすると、ギチ、と苧(からむし)の弦が鳴る。呼吸を止め、弓を引く手のブレを止め、矢の行く軌道に獲物を捕らえる。
パッと矢から手を離すと、シュッと掠れる音を残して矢は獲物へ向かって飛んだ。その音に獲物が気付き飛び立った瞬間、矢が見事にその胸を貫く。

「やったぁっ!」

少年は弾んだ声で歓声を上げると、胸を射抜かれた山鳥の元へと駆け寄った。
丸々と太った、それはそれは美味しそうな鳥である。

「また獲れたよ!」

嬉しそうに鳥の足を掴んで掲げる。

「ほう、またやったか!今度のは大きいなぁ」

「へへっ、でしょー!」

「丸は本当に弓が上手いな!こりゃあ儂も負けておれんぞ」

猟師はそう言って笑うと、少年から鳥を受け取って、見上げる頭を優しく撫でた。
大きな手の平の暖かな感触が何だかやけに嬉しい。丸と呼ばれた少年は、少し照れくさそうにしながらも、満面の笑みを猟師へと向けた。

「丸」とは、少年が唯一覚えていた、名前らしきものである。
実際にそういう名前なのか、それともそれは名前の一部でちゃんとした別の名があるのか、はたまたそれは名前でも何でもないのかは全くわからなかったが、猟師は少年のことをそう呼んでいた。

「向こうの罠はどうだったの?」

「……駄目だった。どうも、また奴が出たらしい。喰われた後だったよ」

猟師は小さく溜息をついた。
このところは、罠に獲物が掛かっても、先に喰われてしまうことが多かったのである。どうやら、どこかからえらく知恵の働く狼が一匹流れて来たらしい。

「ふぅん……じゃあ、丸がもっとたくさん獣を獲ってやるよ!そうすれば、罠の分が無くても大丈夫だよね?」

「ん?……まあ、そうだな!丸が手伝ってくれるなら百人力だ」

少年の明るい言葉に、猟師は表情を綻ばせる。
愛用の重たい弓を担ぎ直すと、猟師と少年は次の猟場へと向かった。

いくつかの猟場の罠を見てみたが、獲物はほとんど掛かっていないようだった。元々から空のままだった罠もあったが、獣に食われてしまったものも多い。
猟師は小さく溜息をついた。

「ここもか……」

「どうだった?なんか獲物掛かってた?」

「いや、駄目だ。またやられとった」

「ちぇっ!好き勝手に食い荒らしやがって!」

少年は腹立たしげに地面を蹴った。
罠の周囲には、並より大きな狼の足跡と銀色の毛が落ちている。残された痕跡は、いつも決まって同じだった。
狼にしては珍しい綺麗な銀色が、妙に神経を逆撫でする。

「まあいいさ、今日のところは。丸のお陰で、鳥に兎に色々獲れたからな」

猟師は困ったように笑いながら、肩に担いだ獲物を揺する。道中で少年が仕留めた獲物が、いくつも紐に結わえ付けられていた。

「狼め!丸が見つけたら絶対に退治してやるのに!」

「ははは、頼もしいな。だが、その弓じゃ駄目だ。もっと強い弓でなけりゃ」

「じゃ、その弓なら仕留められる?」

少年は猟師の弓を指差しそう尋ねた。
いかにも大振りの弓である。枯色をした麻の弦がぴんと固く張り詰めている。
それは大猪すら一撃で射抜くほどの強弓だった。猟師自慢の逸品である。

「勿論、仕留められるとも!だが、この弓は見た目より、ずうっと固い弓なんだ。丸にはまだ早いだろう」

「ふぅん……引けそうな気がするんだけどなぁ……」

「もっと大きくなったらな」

そう言って笑う猟師は、その背後にある妙な気配に気が付かなかった。
静かに、冷たく、しかし、熱く。睨め付けるような、奇妙な視線。
人とも違う、獣とも違う、強いて例えるなら物の怪のような――

少年の背に、ゾワリ、と嫌な予感が走る。

「そこどいてッ!!」

少年は叫んだ。考えるより先に矢を番える。
流れるような、無駄の無い腕運びは、熟練した射手のそれである。

「いったいなんっ……!?」

何だ、と発音されるはずだった猟師の言葉は、背後からの衝撃で強引に断たれた。少年の短弓から放たれた矢が、猟師の頭を掠める。
銀色の塊が、肩を蹴って宙へ躍り出た。その拍子に肩に掛けた弓がどこかへ飛んでいく。

今にも尻餅をつこうとする猟師が見たものは、奇怪な狼の後姿。
立派な体躯は奇妙に痩せ細り、体を覆う銀色の体毛は不思議なほど毛足が長い。
その体形だけが、その生き物が「狼」であることを物語る。
宙を舞う様は、どこか優美で、ひたすら不気味。

異形の姿の狼が、少年へ向かい飛んでいく。

「ま、丸ッ!!」

猟師が戦慄し叫ぶ。少年は真正面に狼の姿を捉えた。
少年の黒い瞳と、銀狼の赤い眼がはたと合う。
狼が嗤った気がした。

「うわっ!!?」

眼前に狼が迫っていた。二の矢を番える間など無い。
とっさに短弓で狼の牙を遮ろうとする。
その弓を鋭い牙が噛み砕く。
勢いに押され一歩後退すると、狼の巨体が少年を弾き飛ばした。そのまま噛み付かれることを覚悟する。
だが、狼はくるりと身を翻した。
その先には、蹴り飛ばされた強弓へ向かおうとする猟師の姿があった。

「危ない!!」

「くぅうッ!!」

猟師は少年の声に、とっさに身をかわす。腰の短刀を引き抜くと、どうにか狼の攻撃を抑えた。猟師と狼が対峙する。
狼はもはや少年を振り返らない。弓を失った少年が、自身の脅威ではなくなったことを悟ったのだろう。
それは、忌々しいほどの的確さだった。

「丸っ……お前だけでも逃げろ……!!」

「で、でも……ッ!!」

短刀一本で、いったいどれだけ渡り合えるというのだろう。その結末は既に目に見えている。
猟師と対峙する狼の姿は、どこか勝ち誇っているように見えた。

少年の目の前が一瞬暗くなる。暗がりに過ぎる白い陰。

『人はみな死ぬのです。血を流してね』

見覚えの有る見知らぬ男が、嘲るようにそう告げ笑う。
ありもしない炎の熱に肌がちりちりと焼ける錯覚。
少年は確かに何かを叫んだが、それは自身の耳にさえ聞こえない。
白い男が不気味な笑みを浮かべた。炎の色を映す瞳は、笑みと裏腹に冷たく光る。

いつかどこかで見た光景が、瞬きするほどの間に過ぎる。

『早く大人になりなさい……立派な大人に、ね』

冷淡な侮蔑を含んだ言葉が脳裏に響いた。

瞬間、視界がパッと開けた。
狼と猟師が相対しているのが見える。その左手、少年の居場所からそう離れてはいない距離の薮に、猟師の弓が引っ掛かっているのが目に入った。

引けるはずなど無い強弓。しかし、迷っている間など無かった。
少年は猟師の弓へと跳び付いた。
それに気付いた狼が少年へと跳びか掛かろうとする。

「うおオォォッ!!」

猟師は叫び声を上げ、銀の巨体を短刀で斬り付けた!
が、ほんの微かに化するだけの手応えしかない。
猟師は咄嗟に狼の細い胴へと組み付こうとする。

それは一瞬の間の出来事だった。
短弓の時よりも、さらに滑らかに、さらに疾く、番う矢の数は実に三本。
大人でも苦労する程の強弓を、幼い両腕が引き絞る。引かれる力で弓がたわみ、固く張られた麻の弦が耳許で、ギチ、と鳴った。
子供の手には過ぎた強弓が、不思議と短弓以上に手に馴染む。三本番える矢さえ、どこか懐かしい。
欠落していた何かが満たされるような感覚があった。
指先の神経まで張り詰めているのを感じる。

少年は矢を離した。
鋭い燐光を軌道に残し、三本の矢が銀狼の体へ吸い込まれていく。
煌めくような赤い色が飛び散った。銀と緑に映えている。

どこかで、忘れてしまった誰かが、失くしてしまった名を呼んだ気がした。

――――……

「……いんや、たまげたなぁ!坊主が仕留めたのかい!」

「こりゃあ、あの狡賢い銀色じゃないか!よくやったなぁ、坊主っ!」

無事に里へと下りた少年と猟師は、里の衆に銀狼を仕留めたことを告げた。
狼は罠に掛かった獲物を食い荒らすだけでなく、里の鶏やら牛やらも襲っていたものだから、里の衆にとってもそれは大層喜ばしい知らせであった。
討ち取られた狼の姿を、野良仕事の手を止めてまで見に来た者の姿まである。

「さすがは与平んとこのガキだ!鳥撃ち上手とは聞いとったが、まさかコイツまで仕留めちまうとはな」

「ん……まあね!このくらい、ちょろいちょろい!」

「ははは!このガキ言いやがる」

「んもー、ガキって言うな!!」

「ガキはガキじゃねえか!」

いかにも子供っぽい反論に、里の男は楽しそうに笑った。その様子に猟師も嬉しそうにしている。
少年は笑い合いながらも、奇妙な感覚を覚えていた。
何か、足りない。その欠落を、これまで以上にはっきりと感じる。
楽しい筈なのに、嬉しい筈なのに、何故か心の底からはしゃげない。それどころか、強弓を引いたあの瞬間の方が遥かに満たされていた。

きっと、弓を引くのが自分のあるべき姿なのだろう。
だが、その弓はか弱い短弓でもなければ、その矢もきっと山の獣に向ける矢ではない。
狼に対峙した時、少年は確かにその事を思い出していた。
しかし、狼を討ち取り全てを終えた後には、既にその事は記憶の奥底に沈んで見えなくなってしまっていた。
ただ、得体の知れない空虚だけが、モヤモヤとした違和感になって胸に残っている。

「丸」

「……ん?何?」

少しの間ぼんやりとしていた少年に、猟師は優しく声を掛けた。
やんわりと頭を撫でる感触に、少年は目を細める。

「よう頑張ったなぁ。今度は、もう少し立派な弓を作ってやろうな」

その手の優しさが妙に照れ臭い。
胸の空虚が少しだけ紛れた。

「じゃあ、今度はもっと強いのが良い!与平のみたいな強い弓!」

少年は満面の笑みで猟師を見上げる。
猟師はますますニコニコとして少年を撫でた。
胸の奇妙な違和感の事よりも、今は猟師の笑顔の方が嬉しい。

きっとこれでいいのだと思った。
空虚な気持ちの正体も気にならなくもないが、今は十分に楽しいのだから。
優しく褒めてくれる猟師の手に、少年は心から満足していた。

第五天魔王と慈眼大師の邂逅する、ひと月ほど以前の出来事である。
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プロフィール

HN:
ヤサブロー
性別:
女性
自己紹介:
無双・BSR至上主義のガチ腐。
無双は三國寄りで好き。
けして、歴女ではない。

一応、同人小説サイト持ち。
ほぼ倉庫化してるけど気にしない。
pixivでは別HNで活動中。

全般的に癖のあるキャラを好きになりがち。

↓↓好き↓↓
司馬懿/陳宮殿/郭淮さん/鍾会さん(無双)
明智/大谷さん/官兵衛さん/又兵衛(BASARA)
松下/埋れ木/二世(悪魔くん)
カイジ/一条/和也/涯/零/森田(福本)
鎬昂昇(バキ)
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